イジメ返し3

「ありがとう……。でも、汚れちゃうから……」

桃ちゃんは必死に手の甲で涙を拭う。

「汚れないよ。桃ちゃんの涙は汚くないもん」

「でも……」

桃ちゃんが何かを言いかけたタイミングでチャイムが鳴った。

カンナは渋っていた桃ちゃんにタオルを渡して微笑んだ。

「桃ちゃんは変わってないね。なんか……嬉しい」

「そうかな……?なんかそう言われると成長してないみたいで恥ずかしいな」

照れ臭そうに笑ったその顔は12年前のように可愛らしかった。

純粋で無垢な笑顔。美波とは真逆だ。

「でも、カンナちゃんだって変わってないよ。12年前も今も」

桃ちゃんの目を見れない。

「……ごめん、桃ちゃん。カンナ、もう行くね」

そう告げて、桃ちゃんに背中を向ける。

――ごめん、桃ちゃん。

心の中でもう一度謝る。

もうカンナは昔のカンナじゃないの。

桃ちゃんが知るカンナは12年前、ママと一緒に死んだんだ。

あの日から12年、ずっとこの時を待っていた。

「ママの仇、カンナが必ずとるからねぇ」

カンナは真っすぐ前だけを見据えて歩きながら、決意を込めて呟いた。