寝る間を惜しんでダンス、ボイトレ、レコーディング、TV、ラジオ、ツアーと勤しんできたけど、ここにきて、少しずつだけど、自分の時間がもてるようになった。
その合間に時々実家に帰るんだけど、父とお酒を酌み交わす機会も増えた。
そこで酩酊する父に、自慢するかのように動画サイトを閲覧させられ、これも娘の役割りと身を乗り出す。
10年は昔のPV。
父のお気に入りのバンドだとか。
朗らかにバンドの説明をする父は可愛い。
あぁ、そういえば聞き覚えがある。

「小さい頃、父の車でよくかかっていた曲だよね?」
「今も車で聞いてるよ。こうやって映像として残ってるのって、嬉しいな」

よっぽど好きなバンドなんだ。
昔は意識して聞いたことはなかったけど、なんか大人な感じの声が敷居を高く感じた記憶がある。
今改めて聞いてみると、ボーカルの声が印象的で、何て言うの……。
甘ったるくてセクシーで繊細で、響く低音と美しい高音。
だけど声量があってワイルドな表現力に鳥肌が立った。
胸の奥が擽られる。
動画を食い入るように見入っていると、目つきに既視感を覚えた。
父からスマホを取り上げ、お祖父ちゃんみたいに画面を顔をくっつけて凝視する。
……ん?
んんんんん?

「カッコイイだろう、湊」

やっぱり!?
っじゃなくて、

「え、なんで湊さん??」
「2年という短い活動だったけど、若者に人気のバンドだったんだよ。だけど……そうだな。自分がやりたい事と、周りに求められる事の葛藤に心が疲れてしまってね。湊が20歳の時に解散したんだ」

我が事のように自慢げに話すわりに、悲しいような、遠目に過去を振り返る。
まるで、父の視線の先に本があるかのように、その本の活字を一行一行噛みしめるように言葉に紡ぐ。

「解散後は、シンガーソングライターとして細々と自分の音楽を追求してたけど、やはり当時の音楽業界で求められるジャンルではなかった。それでも、好きな音楽ができて楽しそうだったよ。それから、今杏が所属しているレコード会社の社長が会社を立ち上げた時に湊に楽曲提供を依頼して、そのまま今に至っているんだ」

湊さんの過去は鮮烈に私の心にしみ込んできた。