奈々が大きく手を広げて、カメラにアピールする横を私はポツリ呟きしれっと横切る。
校門からスタートして、思い出の場所を回っていいらしい。
校門なんて、私は真輝を待ち伏せした忌まわしい記憶しかない。
当時、悲しみを押し殺して、気合と緊張とで登った坂。
胸が詰まって苦しい。
それが幻を見せるのか、登校中の生徒の中、重い気持ちの15の私が見えた気がして、目を閉じて闇に消す。
短く息を吐いて、さっさと終わらせる為に、中に入り奈々に「行くよ」の目配せをした。
思い出の場所も何も、私には何の思い入れもないので、奈々が踊るように進む後ろを進む。
奈々だって、私より長く通ったにせよ、そんなに在籍したわけではないのに彼方此方ここはああだったこうだったと懐かしそうだ。
まぁ、あくまで『AnnA』の出会いの母校がテーマなので、仕方ないか。
それでも、スタートはまずは最初はここでしょ、と言わんばかりに1-A。
私達のクラスだ。

「ひゃー」

奈々は真っすぐバルコニーに出る。
そこは、私と玲奈がよくいた場所。
ここで誰にも聞かれたくない弱音を、玲奈は吐き出していた。
そして、玲奈と過ごした最後の場所……。

「お~、野球部頑張ってるねー」

手を額に置き、バルコニーから見渡せるグラウンドに関心を寄せる。
私は、そこに足を踏み入る事は出来なかった。
代わりに、私が座っていた窓際の席に腰を下ろした。
奈々も戻ってくると自分の席だった椅子に座ると、ポケットに手を入れて私を見る。

「なんか、変な感じするね」
「だね」
「高校の時は、殆ど喋ったことなかったよね」
「うん。でも、私結構見てたよ」
「えっ」
「だって奈々いつも遅刻ギリギリだったから」
「確かにー」

いつも、先生にもう少し早く来いって言われてた。
2人して笑う。

「私も杏見てたよ。根性のあるコだなーって」
「なにそれ」

暗に、真輝との事をさされて訝し気に唇を尖らせると、歯を見せて悪戯に笑い返された。

「話しかけたかったけど、周りの壁が厚くて近寄れなかった」
「壁……」

奈々は曖昧に笑って返した。