誰の犠牲があって、その幸せが成り立ってると思ってるのよ!!

もう頭がぐちゃぐちゃになった。
噛みしめた歯がギリギリと音をたてた時。
そっと、唇を撫でられた。
添えられた指先から視線で追うと、いつの間にか隣湊さんが居た。
目を閉じて、小さく首を左右に振った、ような気がした。
炭酸水のように沸々込み上げてきた感情に、より強炭酸が加わって爆発する寸前での湊さんの登場は、一気に大量の水を注ぎこまれたかのようにクールダウンしてくれる。

もう1度、目の前の佐伯野乃花を見た。
マイや奈々に話しかけられて、顔を赤らめ舞い上がっている。
この子は、何も知らないんだ。
佐伯のおじさんは、自分の娘に心配はかけまいと、知らせてはいないだろう。
だから、野乃花も自分の両親が借金をして、人に押し付けて、その家族がバラバラになっているという事実を知らない。
話ぶりからして、普通に転校して、普通に暮らしてる感じが伝わってくる。

ーーーー何も知らない顔で、無邪気に笑ってる。

でも、知らされていない事を今ここ責めてどうなるんだろう。