折角居留守中なのに。
スマホのディスプレイには湊さんの文字が。
なんてタイミング悪い男なんだ。
悪態をつきながら、気持ち玄関から遠い所で通話をタップ。

「(はい)」
「今家?」
「(そーだけど……)」
「は?ちょっと聞こえねーし」

こっちには、やむを得ない事情中なのですよ。
小声になるのは許してほしい。
でも、仕方ないで、苛立ちを隠しながら、声音を普通にして短い単語を心掛ける事にした。

「何?」
「今、家の前に誰かきてるだろ?」
「うん」
「そいつに俺のパソに刺さってるUSB渡してくんね?」
「……部屋、入ってもいいの?」
「緊急事態だ。じゃ頼むわ」

そう言って通話終了。
玄関の男性は、湊さんの仕事仲間らしい。
人に取りに行かせるほど大事な物なら忘れるなよ、大人。
湊さんの部屋は相変わらず多趣味と言うか……散乱していて、気持ちが萎える。
てか、掃除ししたい。
28にもなる大人が、仕事の忘れ物といい、この汚部屋。
世の中のアラサー男は皆こんなもんなんだろうか。
まぁいいや。
居候は家主の詮索無用だわ。
さっさとUSBを持って、警戒しながら玄関ドアを少し開けると、男性がひょっこり顔を出した。

「わぁ~。本当に女の子出てきた!しかも若い!」

えぇ、えぇ。
こっちはピチピチの16歳ですからね。
キャップをくいっと持ち上げた男性の顔を見上げると、目を瞠った。
え?
え?
えぇぇぇぇぇぇぇ――――っ!?
驚き過ぎて口をパクパク魚状態。
どうして?
なんで?
どういう事??

「あ、俺、川上瑞樹って言います」

知ってますっ!
やっぱり、どう見ても、あの、川上瑞樹!!
寧ろ、殆どの女性は貴方の虜だと思います!

「さっき湊君のとこに見学に行ったら忘れ物したって言ってたから、代わりにとりきたの」

湊さんを、親しみを込めて湊君って言う川上瑞樹。
湊さんって……何者なの!?
固まる私に、眉を下げて困った様子の川上瑞樹。

「もしかして……湊君、仕事の事とか何も話してない?」
「し、仕事?」