そのときを狙い、シレアの放った矢が牡鹿の心の臓を貫く。驚きと衝撃、激しい痛みに悲痛な鳴き声を上げて牡鹿はぱたりと地面に倒れた。

「見事なり」

 足早に駆け寄ったシレアは我を一瞥してナイフを取り出し、牡鹿の死体に手を添えてひと言ふた言を呟きすぐさま解体を始めた。

 素早く血抜きをすれば肉は臭みもなく、干し肉にすればさぞ美味かろう。

 シレアが解体の前に呟いたのは、殺したものに対する敬意と弔いの言葉だ。その体を受け取り、食べる事で生かされる。つまりは、命とこの世界への感謝である。

 エルドシータならではの小さな儀式だ。

[さあ、早う我に肉を]

「よくも言う」

 シレアが切り取った後ろ足を掴み上げ、骨ごとかみ砕く。久方ぶりの味わいに、我の手が止まらぬ。

 あっという間に食べきり、もう一つの後ろ足を見下ろした。