移ろいゆくもの、変わらないもの

                         





店員さんが行ってしまうと、とたんに席は静かになる。

お店のBGMは聞こえてくるけど、どこか遠くのことみたい。


「…あの、」


春休みが明けたら一緒に仕事をするんだ。

少しでも辻先生のことを知っておきたいということで、私は思いきって彼に声をかけた。


「辻先生は、なんで、中学校の先生になろうと思ったんですか?」


思いがけない質問に驚いたのだろう。

辻先生が、え?と声を漏らす。

私は、少し笑ってみせた。


「だって辻先生って、あんまり人と関わるの好きそうに見えないです」


彼が私に心を許してくれたように、私もほんの少し勇気を出して、思ったことを素直に言ってみる。

──この人なら、きっと怒らない。


「あー…まあ。得意ではないな」


思った通り辻先生は怒らなかったものの、あんまり触れられたくなかったことなのか、窓の外へ視線をずらした。

聞いちゃいけないことだったのかと思って謝ろうとした瞬間に、彼が口を開く。


「俺さ、学生のとき、ほんとに教師が嫌いだったんだよね」


思いがけない方向から飛んできた言葉に何も言えずに固まると、席を案内してくれたあの若い店員さんが、パンケーキを運んできた。


「お待たせしました」


ふわりと微笑んだ店員さんが、私の前にパンケーキを置く。


ふわふわの生クリームがたっぷり乗った、可愛らしい見た目のパンケーキ。

赤い宝石のような大きなイチゴが、生クリームのあいだを埋めるように居座っていた。


思わずスマホを出して、写真アプリを開く。

私がパンケーキに心を奪われていると、去り際に若い店員さんが、辻先生に声をかけた。


「中学校の先生をやっていらっしゃるんですね」


「え?…あぁ、はい」


さっきの話が聞こえていたんだろう。

辻先生もそう思ったようで、笑ってうなずく。


店員さんは、お仕事頑張ってください、と微笑んで、来た道を戻って行った。