私が辻先生を連れてきたのは、駅の近くにあるオシャレな喫茶店。
昨日駅からアパートまで行く途中に見つけて、店先に出ている看板に書かれた店オススメのパンケーキが気になっていたの。
店に入ると、お似合いですね、と若い女の店員さんに微笑まれた。
別にそんなんじゃないんだけど、な。
私は流風のことが好きなのに、なんか、浮気してるみたい?……でも、私と流風だって付き合っているわけじゃないし。
何だか辻先生に申し訳ない気もするけど、申し訳ないと思うこと自体が申し訳ないし…。
「え、と」
困って辻先生を見ると、彼は店員さんに向かって、にこりと笑った。
「ありがとうございます」
作ったような、すごく綺麗な笑みだったけれど、若い女の子を落とすのにはじゅうぶんだったよう。
若い店員さんは可愛らしく頬を染めて、ぶんぶんと首を振る。
「でも、彼女はただの仕事の同僚ですので」
そして辻先生のその言葉に、わかりやすく反応した。
店員さんは、ぱっと花のような笑顔を浮かべる。
「そうなんですか!」
辻先生は、依然柔らかい笑みを浮かべたまま。
「はい。こんな綺麗な方、俺にはもったいないです」
不意に彼の口から飛び出した言葉に、どきんと胸が鳴った。
驚いて辻先生を見ても、彼は笑顔を浮かべているだけ。
……そんなにさらりと言えてしまうのは、きっと、嘘なんだからだろうな、なんて。
一瞬で、頭が冷える。
『俺は、飾ってない桜華の方が可愛いと思う』
流風のまっすぐな言葉が、頭をよぎった。
辻先生と同じように、さらりと言った言葉なのに。
流風の言葉は、流風の言葉だから、胸の鼓動を加速させる。
あの言葉は嘘じゃないって、そう思えるから。
甘くて、優しくて、まっすぐなあの言葉が。
辻先生の、繕った言葉じゃなくて。
「……そんなことないですよ」
愛想笑いで返してみせる。
辻先生が私の表情を見て、ほんの少し目を見開いた。
店員さんが、席ご案内しますね、と微笑み、歩き出す。
案内されたのは、窓の近くの、日当たりの良い席だった。


