アパートから中学校までは、歩いて10分くらい。
私の記憶を頼りに昨日歩いてきた道を行けば、すぐに中学校の正門に着いた。
午前8時54分。
9時に来てくださいと言われていたけど、まあ6分くらいなら早く来ても大丈夫だよね。
門の隅に分かりにくく付いているインターホンを押す。
ピンポン、と案外普通の音が鳴った。
しばらくして、はい、と低めの声が聞こえてくる。
結構若い人、かな?
「あの、私、天海桜華です。新任の…」
そこまで言えばわかったらしい。
あぁ、はい、今開けます、と声がしたと思えば、かちゃり、と門の施錠が解かれる音がした。
そっと手で押せば、古びた重たい門がゆっくり開く。
この門を通るのも、7年ぶりだ。
何だか懐かしい気分のまま門をくぐると、ここはもう狭い校庭。
校庭の隅の方に、更衣室やトイレ、体育倉庫が申し訳なさそうに建っている。
校舎もとんでもなく小さくて、やっぱり人が少ないんだなぁ、と痛感させられた。
懐かしさを噛みしめるかのようにゆっくり歩く。
そのとき。
「天海さん、ですか?」
聞こえてきたよく通る声に顔を向ければ、校舎から一人の男の人が出て来ていた。
暗い茶色に染まった猫っ毛が特徴的で、すらりと背が高い、細身の男性。
「あ、はい!」
あわてて頭を下げると、柔和な笑顔が私を見てくる。
「俺はここの教師で、一応君の教育係。辻誠吾(ツジセイゴ)です。よろしくな」
人の良さそうな笑みだったけれど、何かが引っ掛かった。
「よろしくお願いします!」
それでも深くは考えずに笑顔を作ると、辻先生は軽くうなずいた。
…笑顔を作る?
──あぁ、そうか。
この人、私とおんなじなんだ。
感じていた違和感が、なんとなく晴れる。
きっと辻先生も、笑顔を”作って”るんだ。
私とおんなじように、誰も敵を作らないように、周りをうかがっている。
その代わり、誰にも自分を出さないようにして。
……何だか親近感が持てそうな気がする。
変な仲間意識を抱いてしまった私は、心の中でもう一度、辻先生に向かって「よろしくお願いします」と呟いた。


