「え、桜華?どうした?」
戸惑ったように、流風が聞いてくる。
「私…今、メイク、してない…」
ただ流風に会いたい一心で、メイクなんか忘れていた。
恥ずかしくて、顔に熱が集まってくる。
──やだ。今、そんなに見ないで。
泣き出しそうだった。
じ、と見つめてくる流風の視線が、この上なく痛い。
「あんまり話してるのもなんだし、私、もう戻るね」
逃げるように、彼に背を向ける。
流風の表情は、見えなかった。
──あきれてる、かな。ブスだって、思ったよね。
好きな相手にこんな醜態をさらすとか、最悪だ。
どうせなら、いつでも一番可愛い私を見ていて欲しいし、そんな私を見て「可愛い」って思って欲しい。
なのに、まさかメイクするのを忘れるとは。
「……何、今さら」
なのに聞こえてきたその声は、予想を裏切るかのような、不思議そうな声色だった。
「中学生のときなんか、メイクしてなかったじゃん」
どうして恥ずかしがってるの、とでも言うような口調。
「だって、それは、まだ、子供だった、から」
もう、あんな子供じゃないのだ。
好きな人相手にすっぴんをさらけ出して、無邪気に笑っていられるような子供じゃない。
そんな私の言葉に納得しなかったのか、流風は小さく首を傾げた。
「俺は、飾ってない桜華の方が可愛いと思う」
不意打ちに、どきりと胸が鳴る。
一瞬にして、流風のたった一言で、心臓が止まった。
そんな、可愛いなんて、さらりと。なんでもないことのように。
当たり前だ、とでも言わんばかりに。
──嬉しくて、泣きそうだ。
「桜華は、そのまんまが良い」
まっすぐな言葉が、嬉しくて。
どのみち学校に行くから、結局メイクはするつもりだけど。でも。
「ありがとう」
振り返って、笑ってみせる。
いつもより、薄めのメイクにしてみようか。
ちょっとメイクをするだけにしようか。
例え流風の言葉がお世辞だったとしても、そんな風に浮かれてしまうのは、きっと。
大好きな、君の言葉だから。
流風は、少し照れたように笑い返してくれた。


