漢江のほとりで待ってる


「賭けてたんだ。十年前のあの人に出会えたら、奇蹟が起きるって。だからきっと、あなたとも未来ずっとうまく行くって」

「うん。奇蹟は起きた。もうその時から起こってたのかもしれない。偶然にあなたが、若かりし頃の私のブログを見たのがきっかけで、それから私の母と出会い、そののち私と出会った」

「そうなるように引き寄せられていた?」

「きっとね。……十年前、父が亡くなり、私は故郷に戻っていたの。尊敬してやまない父だった。母は見ていられないほど、落ち込んでいた。それに加えて私まで悲しみに暮れていたら、母はもっと耐えられなくなる、そう思って、気持ちを奮い立たせるために、ううん、気が付いたらあの漢江まで歩いてた。その時よ?あなたを見つけたの。その時が、私とあなたの初めての出会い。悲愴な顔をして、橋の下を見つめてた。今にも欄干を飛び越えそうだった。あんな人生を、あの少年が背負っていたなんて」

「お互いその時の自分達と気付かずに、十年後、再会を果たしてたのか……長かった。遅いよ珉珠。どこへ行ってたんだよ。もうオレから離れんなよな」

「うん。ごめんね、待たせて。離れない、ずっと傍にいる」

珉珠は優しく微笑んだ。

韓国はとても雨が多く、雪もよく降って、そしてとても寒かった。

でも由弦の心はとても温かかった。

生きていた中で一番……

それから滞在期間の中で、珉珠の父のお墓参りに出掛け、そこでも衝撃的な事実を知ることになる。

由弦が毎年命日にお参りに来ていたのは、珉珠の父のお墓だったこと。

珉珠とセラもまた、命日に白菊を飾っていたのが由弦だということを、この時初めて知った。

「まさかジュン君(由弦)が、毎年お花を添えてくれてたなんて……」

セラは涙をこぼした。

「おばさんと暮らしてた時、いつか旦那さんの話を聞かせてくれたでしょ?オレが初めてやって来た日に、旦那さんが亡くなったって。おばさんと離れてからも、感謝の気持ち込めて毎年会いに行ってた」

「来てたなら、会いに来てくれたらよかったのに」

「会うと、帰れなくなるから……」

「バカな子ね、居たければ、理由を知ってたら帰さなかったのに」

セラは由弦を抱き締めた。

「父が導いてくれたのかも、由弦との出会いを」

珉珠は改めて父に感謝した。

そして珉珠は、父との思いでの場所、あの良才市民の森へ、由弦と出掛けた。

「あなたと歩きたかった場所。ここは父との思い出が詰まってる場所なの。それをあなたと来られて、私はとても幸せよ」

手を繋ぎながら歩く二人、珉珠は由弦の顔を覗き込んで言った。

「そうだったんだ。オレは何も知らずにここへ来てた。ここは居心地が良くて、嫌なことがあったり、寂しくなった時には必ずここへ来てたんだ。不思議と心が癒されて行くのが分かった」

「由弦、腕を出して」

「……!?」

不意に彼女の言葉に驚いたものの、由弦はそっと腕を差し出した。

珉珠は返しそびれた腕時計を、再び由弦の腕にはめた。

「この腕時計と共に、あなたの大切な時間をこれから刻んで行ってね。それと私だと思って大切にして?」

珉珠は笑って言った。

「珉珠さん……」

珉珠の故郷で、一層二人は愛を深めた。