その夜、温かな団欒のあと、「外の空気を吸って来る」そう言ったまま由弦が戻らない。
何時になっても帰って来ない。
心配になり、珉珠は探しに出ようとした時、雨が降り出した。
―――― 由弦……
心当たりのある場所を思い出しつつ、珉珠は不安を過らせた。
探し回る珉珠。
その時由弦は、漢江のほとりにいた。
雨の中、一人ベンチに座り、全身濡れていた。
その様子は、去年と同じように、うなだれて、まるで来るはずもない待ち人を待っているようだった。
落ちる雨粒を見つめる由弦。
その時一瞬、雨が止んだ。
ふと見上げると、自分に傘を向けてくれる女性が目の前に立っていた。
「風邪ひくわよ」
その人はそっと言った。
「オレの命の恩人なんだ。待っても待ってもその人には会えない」
「あの日もずっと待ってたのよね。何度も待たせてゴメンね、由弦」
「……!?」
「何度この漢江の橋を一人で渡って来たの?でも今度は大丈夫、二人だから。越えられないものなんて何もない!それに生きていたから、私達もまたこうして会えた」
知っているフレーズ。
思わず由弦も口にした。
「この漢江の橋を歩いて渡って来たんでしょ?その力があるのなら大丈夫!越えられないものなんて何もない!それに生きていたら、私達もまた会えるかもしれない」
もしかして、あの時の女性は!?
「やっと会えたのね」
「そんな、オレはずっとキミのことを待ってたなんて……」
一つの偶然が繋がった。
あの時から少年は、漢江のほとりで待っていた。
大人になってからもずっと、ずっと待っていた。
あの時の彼女が、すでに出会っていた人、珉珠だとも知らずに。
「こんなに濡れて……帰ろう?由弦」



