寝室の二人、激しく唇を重ね合った。
珉珠は高揚していた。
と突然、由弦は唇を外し、俯いた。
「気分じゃなくなった?」優しく囁くように珉珠は言った。
首を横に振った由弦が、
「幸せ過ぎてこわい」
と起き上がった。
「由弦……」珉珠はそっと抱き締めた。
それから、ある物を小さな箱から取り出して、由弦に差し出した。
それを見た途端、由弦は目を大きく見開いた。
捨てたはずの、母の形見である指輪だったから。
「あなたのお兄様が見つけてくださったのよ。ううん、あなたの親友、一条さんも必死で、それと仲里さんも」
珉珠は自分のしていたネックレスを外し、大切な指輪をそれに通して由弦につけてやった。
「もう失くさないで」
「オレばっかり泣かさないでよ。日本男児は泣かないのがモットーなのに」
「あの夏の日、お兄様が私の部屋を訪れた時に、渡してくださったの。ちょうどあなたが炭酸水を買いに出た時」
「そうだったのか……オレは勘違いして……ゴメン。兄貴、何も知らないでゴメン。みんながオレのために……」
「泣かないで?あなたに直接渡せてよかったわ。仲里さんにも言われたの。その指輪が二人を結ぶ糸口なら、ちゃんと紡がないとって」
それと珉珠は、事故に遭う前に由弦が走り書きした手紙を見せた。
「こんなものまだ持ってたの!?死んで成立する手紙だったのに。これじゃ来世に紡げない」
「死んでしまったらそれこそ意味がない。生きてるなら、あなたの口からちゃんと聞きたい。そして二人で未来へ紡ぎたいの」
「珉珠さん」
「聞かせて?あなたの言葉で」
由弦は少し躊躇いながら、
「来世でなく、今世紀に約束する!二度とあなたを離さない!」
「もし誰かが奪いに来たら?」
「奪い返してやる!どうしようもなくあなたが好きだ、珉珠」
穏やかな目付きで由弦は言った。
憎しみを抱いた時の、冷めた目をした由弦はどこにもいなかった。
「しっかり手を握って離さないで?私もあなたを離さないから。私も、あなたをどうしようもなく好きよ、由弦」
二人抱き合った。
「あなたの大切な形見の指輪も戻ったし、これであなたが死ななければならない理由も無くなった。まだまだたくさんこれからイベントが待ってるのよ?私の誕生日はね、あなたが大成功させたあの博覧会の初日、その日よ」
忘れもしないあの日、一人韓国へ飛び立った日。
由弦はこの時初めて、珉珠の誕生日が、三月十七日と知った。



