珉珠はめげずにまた小田切邸にやって来た。
今度は由弦にではなく、椿氏に用があると訪ねた。
直接由弦のことを聞くために。
何とか中に通され、急に由弦に会わせてもらえなくなった理由を、教えてほしいと珉珠に言われた椿氏。
真っ直ぐな珉珠の思いに、胸が痛んだ椿氏は、歯切れ悪くはありながら、
「すまない、由弦に固く言われていてね。私もよく分からないんだ。どうして急に、君に会いたくなくなったのか。それと、あの子は今ほんとにここにはいないんだ」
「このまま身を引いたら、私、ほんとに後悔すると思うんです。取り返しがつかないような気がして。自分勝手は百も承知です。会いたくない理由も知りたい。だから、どうか彼の居場所を教えてください」
珉珠は頭を下げ、必死に懇願した。
大きな溜息を吐いた椿氏は、とうとう由弦の居場所を教えてしまった。
「先生から聞いたとは絶対に言いませんから!お心遣い、心から感謝いたします」
珉珠はしばらく頭を下げたままにした。
「どうか、頭を上げてください。私の方が感謝したいくらいだよ」
珉珠に向かって優しく椿氏は言った。
「えっ!?」
「あの子が、君を好きになった理由が、分かるような気がする。君は、由弦の母親に似ている。君が必死で居場所を聞き出そうとしていた時の姿が、琴乃に重なってね。姿や顔は違うが、君が醸し出す雰囲気だったり、あと発する言葉、仕草だったり、そして芯の通った所。いや、孫の名誉を守るためにも言っておくが、あの子は決してマザコンではないぞ?はっはっは。きっと、幼くして亡くした母の面影を、君に追っているんだろう」
椿氏の言葉に、哀し気な顔を見せた珉珠。
「そんな君が、また自分の前から、いなくなると思ったら、その辛さは計り知れまい。失くす前に、自らいなくなることを選んだ……なんてね」
「私は、いなくなったりしません!二度と彼から離れないと決めたんです!」
そう言うと、また頭を下げ、珉珠は由弦の所へ急いだ。



