皆が帰ったその夜、由弦は色々と考えた。
珉珠が自分の傍にいるのは、やはり違和感があった。
彼女は会社も辞め、自分から遠ざかって行ったのに、また近付いて来た。
それに変に優しい……
「今度はどんな企みがあるんだ!?兄貴を会社に戻せと?会社を渡せというのか!?兄貴のためならなんだってするんだな!で?望みが叶えばまたオレの傍から離れて行くんだろ?」
由弦は勘ぐった。
—————— だったらそうなる前に、オレから離れて行ってやるよ!二度と同じ思いで裏切られるのはゴメンだ!
どんどん心は歪んで行った。
早速由弦は、珉珠を避けるため、椿氏に、一人暮らしをしたいと言い出した。
突然の由弦の言葉に、椿氏は偉く驚き、また孫の体のことも心配で、それは許可できないと言った。
けれど、どうしても由弦は引かない。
何を言っても聞かない由弦。
椿氏は根負けし、それなら、由弦の体の状態や暮らしぶりが逐一分かるよう、自分の所有するホテルで暮らすならと、条件を出した。
それ以外は認めないと、椿氏もきっぱり言いのけた。
「一人暮らしさせてくれるなら」と由弦は条件を飲んだ。
自分が家を出たことを誰にも言わないでくれと、約束させた。
そんなこととは露知らず、珉珠はいつものように小田切邸を訪れた。
調子悪げに、家政婦が断る。
「どこか具合でも悪いのかしら?」と尋ねる珉珠に、歯切れ悪そうに、「いえ~、その~、はい、少し体が優れないようです……」と答えた。
この日は、変だと思いつつ、素直に帰った珉珠。
次の日も、珉珠は訪れ、「今日はお出掛けでございます」と言われる。
また次の日も、「今まだお休でございますので」
その次の日も。そのまた次の日も。
流石に珉珠もおかしいと思いだし、自分を避けているようで、何かと理由を付けて、断っているように思えた。



