漢江のほとりで待ってる


数時間ほど経って、由弦は目を覚ました。

一条は、指輪のことを尋ねた。

そして、もしも母の形見を捨てたことで、亡くなった母に対し負い目を感じて、死のうとしているのなら、それは違うと由弦を諭そうとした。

「そうじゃない。全てを壊したら、母さんのとこへ行く約束をしたんだ。母さんを捨てて死に追いやったあいつを、オレから体の自由を奪ったあいつらが、未だにのうのうと笑って幸せに暮らしているからと思ったら、たまらなかった。憎しみさえ込み上げて来た。許せなかった……それにオレは、生きてる価値もない。生まれてはいけなかった存在なんだ。だからその罪は自分で償う」

由弦は淡々と語った。

「それは仕方のなかったことなんだ。誰だって気持ちを追い込まれたそうなる!価値がないとか、生まれてはいけない存在なんて、そんな悲しいこと言うな!」

一条は、由弦の言葉にやり切れない気持ちだった。

「由弦、君がどうでもいい存在なら、みんなここまで心配したりはしない。風の便りで琴乃に子供が出来たと聞いた時、どんな嬉しかった、分からないだろ?私達にとって、君はかけがえのない存在なんだ」

椿氏は喉を詰まらせながら話した。

そんな言葉も、自分の傍で手を握る珉珠の存在も、誰にも内緒で思いを寄せる仲里も気持ちも、由弦には届かなかった。

現実に引き戻されたように、自分のやったことを振り返る由弦。

そして、珉珠と慶太の結婚式の日、消えようと覚悟したことを思い出した。

結婚したはずの珉珠が、毎日自分の所にやって来る意味が分からない。

由弦は、珉珠と慶太が結婚していると思っている。

自分の手を握る珉珠の手を振り払った。

「由弦?」

由弦の行動に、不思議に思って問いかける珉珠に、由弦は顔を背けた。

やっと正気を取り戻した由弦の目は、また虚ろに戻って行った。