漢江のほとりで待ってる


廃人のような由弦。

事故以降、過去の記憶に苦しめられ、眠れない夜が続いていた。

事故直後から、漢江に飛び込んで目覚めるまでの悪夢を繰り返し見る。

目覚めると決まって呼吸困難に陥る。

天気の悪い日は、特に雨の日なんかは、頭痛と手足の痺れに悩まされる。

そんな後遺症とも闘っていた。

今日も日本庭園の見える縁側で、ぼんやりと過ごしていた。

そこへ珉珠がやって来た。

椿氏は快く珉珠を迎えた。

小田切邸の玄関構えから圧倒されたが、中もあまりの広さと、歴史さえ感じる重厚感に驚いた珉珠。

さらに奥へと進むと広間に辿り着いた。

あの日本庭園が存在感を表した。

—————— 凄い!まるで写真みたい。

珉珠は思わず息を飲んだ。

何気に少し視線を外すと、そこに由弦がいた。

「由弦……」

珉珠の中に緊張が走る。

どう声を掛けようか迷っていた。

「お茶はどうかな?」

気を利かせた椿氏が、困っている珉珠に言った。

「ありがとうございます」

「ずっとあの調子でね。ご飯もあまり食べないんだ。母親の部屋に行き、この庭で過ごすのが日課だ。展覧会で会った時とはまるで別人だ。無理もない。思うように体が動かせないんだからね」

珉珠は椿氏から話を聞いたあと、由弦の部屋に案内された。

ペンや破れた紙が散乱していた。

描きかけていた絵も、ぐちゃぐちゃに塗り潰され、ビリビリに破られていた。

その光景は由弦の心情そのもので、孤独や悲哀、たまらないほどの寂寥感で満ちていた。

珉珠は何も言わず、黙々と片付け始めた。

視界がぼやけ、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちた。