漢江のほとりで待ってる


そう言われたものの、珉珠自身も、由弦に会う自信がなかった。

突然、

「あんな奴に抱かれた、そんな汚い手でオレに触るな!!あんたなんか大嫌いだ!!」

由弦の言葉が、珉珠の脳裏をかすめた。

まるで心臓をナイフで突き刺されたかと思うほど、痛かった。

事実じゃないことが山ほどあるのに、それを伝えられない。

由弦に会うかどうか迷う珉珠。

何気に、由弦との楽しかった時の思い出を馳せながら、ふと、博覧会で展示されていた由弦の絵を思い出した。

—————— あの時はゆっくりと見てる時間がなかったわね。

そう思ったら、なぜか無性に絵が見たくなった。

確か由弦の絵は、椿先生が引き取ったと聞いていた。

珉珠は、それから椿氏の画廊へと足を運ぶ。

椿氏の所有するのは、小さな画廊だなんてとんでもない!ちょっとした美術館だった。

「都市が管理するレベルだわ。流石、小田切仲親氏、高柳グループと引けを取らない、ううん、それ以上かも」

珉珠は独り言を言いながら、入って行った。

改めて見る由弦の絵は、とても情熱的だった。

今にも飛び出してきそうなほど躍動的で、由弦の個性に富んでいた。

けれど、一たび絵から離れて見ると、どことなく哀し気な表情を覗かせた。

哀しみと怒りにも似ているような。

—————— 由弦……ずっと一人で淋しさに耐えていたの?あなたの笑顔に騙されてた。何だか、胸が痛い。ごめんね、由弦。

珉珠は胸をぎゅ~っと締め付けられ、目には涙を溢れさせていた。

そしてさらに、他の絵へと目を移すと、珉珠の故郷である、良才市民の森の絵があった。

博覧会で映し出されていた時とはまた違って、青空に、紅葉した木々が映え、切なげな秋の顔だった。

この絵も激昂と哀切が入り混じっているように思えた。