しばらく無言で掃除が行われていた。
皆黙々と作業をしていた。
「ここで暮らそうか」
突然、弦一郎が言い出した。
一斉に皆手を止めて、そちらを見た。
「……!?ここで?」雅羅は驚いた。
「そうだ。三人くらいなら何とかなるだろう。小さいがキッチンもある、風呂もトイレも。雨風しのげれば十分だ。少しでも由弦の気持ちに寄り添いたい」
「そうですわね」雅羅は素直に納得した。
慶太もうなずいていた。
「まさか専務が出て行けと!?」仲里は思わず聞いた。
「あいつは関係ない」と慶太。
不安な顔を見せる珉珠に向かって、
「青木君、本当だよ?由弦は一切関係ない」弦一郎がうなずいて珉珠に言った。
慶太は珉珠等に、本家を出ることになった理由を説明した。
「あいつ、今抜け殻のようになっているらしいから」と慶太。
「……!?」ショックを受ける珉珠は、会いに行きたくても行けない。
「仲里君から聞いたんだ。まだ麻痺が残っているらしい。リハビリもあまりしていないそうだ」
慶太が言ったあと、珉珠は仲里を見た。
仲里はうなずいた。
「私自身も行くべきなんだが、合わす顔がない。それに、私を見ると辛い記憶を思い出させてしまうに違いない。君もそうだろうと思うが、それでも、会いに行ってやってほしいんだ。君ならきっと由弦を救える」
慶太は、全てを託すように、珉珠にお願いした。



