「大丈夫かな?」椿氏が優しく由弦に話しかけた。
「椿先生?」と静かに由弦は答えた。
うなずきながら、椿氏は由弦の傍に座ると、
「自己紹介がまだだったね?初めまして、小田切仲親と言います」
「小田切仲親!?はっ!大株主の?」
「ははは、そうだな。確かにそれもそうだ。もう一つ、私は、小田切琴乃の父だ。つまり、君のおじいちゃんに当たる」
「えっ!?」
「驚くのも無理はない、離れて暮らしていたんだから」
「オレの?おじいちゃん……!?」
「そうだ。目元は父親譲りだが、鼻筋や口元は琴乃似だ。全体の雰囲気なんかは琴乃そのものじゃないか~」
娘を投影するかのように、由弦を愛おし気に見つめた。
「……」
由弦も椿氏を見ながら、その涼し気な目元は琴乃そっくりで、優しい笑顔に母の面影を重ねて泣いた。
「母さん……」
椿氏は思わず由弦を抱きしめた。
珉珠ももらい泣きしていた。
「随分探したんだ。君は色んな所に行かされて、なかなか足取りが掴めなかった。そして君が十五になったあの日、やっとの思いで見つけ出すことが出来て、韓国に飛んだ。そしたらまたも一足遅かった。すでに君は弦一郎君に連れて行かれた後だった。てっきり幸せに暮らしているものだと思っていたのに……」
椿氏は俯いた、そして弦一郎の方を見て、
「君は何のために孫(由弦)を連れ出したのかね!幸せにするつもりで連れ帰ったのではないのか?幸せにするどころか、辛くて淋しい思いしかさせてないじゃないか!」



