珉珠は握る由弦の手を、自分の頬に当て心を重ねた。

雅羅は、衝撃のあまり声が出なかった。

「そんな馬鹿な!親戚にお願いした時には、私の代わりに養ってくれると思って、かなりのお金を送ったんだ!それも釣りが出るほどの。なのになぜ、残飯を食らわなきゃならないんだ!そんな小さな子供に……由弦は毎年のクリスマスもプレゼントも貰わず、ケーキすら口にもせず、寒い夜空に放り出されて過ごしていたというのか?なんてことを!そんなこととは知らずに、私は何十年も、温かな部屋でスープを飲んでいたというのか!?真夏の暑い中、小さな由弦が水を欲していた時も、私は快適な部屋で……由弦は幸せに暮らしているものだと思い込んでいたのか。許さん!奴等!絶対に許さない!」

弦一郎は、由弦の不遇な扱いに、やり切れなさと怒りを覚えた。

「私達は由弦さんに、ひたすら傷を負わせていたのね。だから暴れたのよ」と由弦に同情をする雅羅。

「その話は本当か?」

部屋の入り口付近から声がした。

入って来たのは椿氏だった。

「その話は本当なのかと言っているんだ」

「お、お義父様!」弦一郎はうろたえた。

—————— お義父様!?

そこにいる誰もが思った。

「部屋に入ったら、話し声が聞こえてね。盗み聞きするつもりはなかったんだが、これは一体どういうことかね?弦一郎君」

「いや、その……」

「君はこの子と一緒に暮らしていたんではなかったのか?」

「それは……」

「なぜだ!!」

皆は驚いた。椿氏は物静かで、そんな声を荒げるような人には見えなかったから。

弦一郎が椿氏を、「お義父様」と呼んだことさえ飛んでしまうほど。

「申し訳ございません。お義父様が由弦を探していらっしゃることを知り、お世辞でも幸せにしてるなんて言えない、たらい回しにした揚げ句、息子の行方まで分からないなんてことが知れたら、そう思うと怖くて、琴乃の件もあって、だから」

「そんなことのために。自分可愛さに、結局こんな思いをさせているなら、素直に私の所へ由弦君を渡してくれればよかったものを!君は琴乃も子供も自分が必ず幸せにすると、啖呵を切って、私の前から二人を連れ去ったんだ!なのに何だこの様は!自分の至らなさを棚に上げ、面倒を押し付けた相手に責任転嫁までするとは、情けない!なぜ琴乃は君のようなものに惚れたんだ」

「ほんとに申し訳ございません!」

弦一郎は土下座をした。

「謝る相手を間違っている!私でなく由弦君に謝りなさい!」

病室は重苦しい空気で覆われていた。