ソウル市内の病院の一室。

ベッドに横たわる由弦を囲むように、皆顔を覗かせる。

珉珠はしっかり由弦の手を握り、回復を祈った。

二度も死ぬ思いをさせてしまったと、珉珠は自分を責めていた。

由弦の体は何が起こるか分からい状態だった、二四時間慎重に経過観察された。

その眠る由弦の傍らで、

「兄上の救助のお陰ですよ」と一条がそっと慰めるように言った。

「偶然だよ。漢江大橋の修繕工事にうちも協力していて、夜間工事の者が待機していたお陰だ。水辺と言うこともあり、そこで働く者には、救命措置の訓練もしていて、中にはプロフェッショナルな人間も何人かいる。それが役に立ったというわけだ」

「そうでしたか……こんな時に何ですが、高柳には黙っていてくれと言われてたんですが、やはり言うべきだと思って。実は……高柳、記憶を取り戻していたんです」

皆が驚いた。

「いつから!」珉珠は動揺した。

「高柳が、あの事故後、退院して失踪中に、愛馬が思い出させてくれたそうです」

そう言うと一条はその時のことを詳しく話した。

珉珠は愕然とした。

「でもどうして、本当のことを言ってくれなかったの?」

「思い出してすぐ、青木さんの許へ走ったそうなんです。でも、高柳が入院中、お二人が婚約の報告をされに来た、その時の青木さんの婚約指輪を眺めながら、とても幸せそうな顔が頭を過って、そんな顔を思い出したら言えなくなったそうです。せっかく幸せを掴んだのに、自分のせいでそれを壊す訳にはいかないと」

「由弦……なら私は、記憶の戻っていた由弦に、あえて遠ざけようとしてたの?なんてことを」泣きながら珉珠は、眠る由弦の頬に触れた。

「それと、私も言うなって言われてたんですけど―――― 」

珉珠を見て、仲里も思わず言葉を吐き、去年のクリスマスイヴのことを話し出した。