「ここで何か燃やしたんだな。ほとんど分からないけど、たぶん、パスポートじゃないかな。おそらく死ぬ気で、自分の素性がバレないように燃やしたのかもしれない。誰にも迷惑かけないように」
「そんな~!」と仲里。
珉珠は不安を募らせる。
その時の由弦の心情を思うと、やり切れない思いがした。
「ヤバイな。ふらりと外に出て、衝動的に……ゆっくり探してる暇はないみたいだ。もしかしたもう……」
一条の言葉に、
「縁起でもないこと言わないでください!」と仲里。
「ごめん!オレこれでもかなり焦ってるんだ」
いつも冷静な一条らしからぬ言葉だけに、二人の不安も大きくなった。
時間だけが過ぎて行く。
ホテルを出ると、すっかり陽も暮れて、辺りは暗くなっていた。
北と南に別れて、必死で街中を探したが、由弦と思わしき人間には出会うことはなかった。
行き交う車も人通りも、数えるほどになった、眠りにつこうとしていたソウルの街。
皆、疲れ果てながら、漢江大橋に差し掛かったその時、欄干に立ち、真下を見つめている人影が見えた。
珉珠はそれが由弦と確信した。
そして、
「由弦——————っ!」叫んだ。
皆が由弦のもとへ走り出したその瞬間、欄干から足が離れ、河へと落ちて行った。
一瞬時間が止まったようだった。
「……!!」
誰も叫ぶ間もなかった。
ザッブーン!!
遅れて音がしたあと、
珉珠は橋の下を覗き込んで叫んだ。
「由弦ーっ!!」
「高柳ーっ!!」
「専務~っ!!」
暗くて何も分からない。



