漢江のほとりで待ってる


弦一郎は、帰る車の中で考えた。

二、三日前、由弦は暴れた。

由弦があんな風になるなんて、誰も思いもしなかった。

兄の社長就任を誰よりも喜んでくれると思っていた。

弦一郎は、財産も由弦の取り分のことも考えいたし、慶太の右腕にと思っていた矢先、また由弦は会社などに興味などないと思っていただけに、解任のことは驚きを隠せなかった。

親子の関係も、事故当時のように、巻き返しも出来ると思っていた。

珉珠のことも、すっきりと解決していると思っていた。

なのになぜ?

自分を父とも思いたくないほど、由弦を怒らせるものとは?

「まさか?まだ青木君を?」

記憶は戻らなくとも、由弦は彼女を愛していたのか?

ならなぜ、彼女を好きだとはっきり言わない?

慶太のためか?兄弟の問題は何も解決せずに、自分は慶太と彼女を婚約させたというのか!?

だとしたら、自分は何と愚かなことをしたのだろう……

しかも結婚式は、由弦の誕生日の二日後、それに合わせて、総会を開いたというのか?

「彼方立てれば此方が立たぬ」

あの子の言うように、何も文句を言わない分、無意識に由弦を、二の次にして来たのかもしれない。

またあの子の気持ちに蓋をさせたしまった、由弦の胸の内を思うと、弦一郎自身も心を痛めた。