由弦は石段に腰を下ろして、ポケットから小さな白いリングケースを取り出した。
「それは?」
一条が聞いた。
由弦は開けて取り出した。
見ると、ダイヤがちりばめられた、プラチナリング。
それを切なげに見つめる由弦。
「母さんが亡くなる前に、オレに託した。本当に好きな人が出来た時にこれを渡しなさいって」
「形見か」
「オレ、これを美桜でなく青木さんに渡そうとしてたんだ」
「お前まさか!?」
一条は由弦が記憶を取り戻したのかと、一瞬思った。
「ふっ。もうこれを持ってる意味もない。告白すらさせてもらえなかったけどね?だって、いきなり婚約って言うんだもんな。それに告ったところで無理だと思う。オレはまだ学生の身分だし、大人としても見てもらえないだろうし、資格がない」
「高柳、聞いてくれ。お前は……青木さんはお前の彼女だ!だから、お前には資格がある!それとオレ達はもう大学生じゃない」
「えっ!?」
「事故に遭ってから、お前は一部記憶を消失している」
「嘘だろ!?」
「ホントだ!それに、神崎ともとっくに別れている。だから何の関係もない!青木さんを好きになったことで罪悪感を抱かなくてもいい!」
「えっ!?」
「神崎の方から、結婚するから別れてほしいとお前は言われ、そのタイミングでお前の親父さんから、アメリカから日本に戻って来いと言われてた。お前は高柳グループを担う一人として父親に呼び戻されたんだ」
「マジかよ……」
「それでお前は!」
「それじゃぁオレは青木さんと出会っていたんだな?」
「……そうだ。それでお前と青木さんはお互いに好き合ってたんだ。付き合っていた」
「!?なら何で彼女は何も言ってくれなかったんだ!!何で兄貴と?何でみんな黙ってたんだ!!」
「すまん……全部お前のためだとみんな思い込んでたんだ」
「そんな……」
動揺して我を忘れたように、ふらふらと由弦は歩き出した。
「高柳!どこへ行くんだ!おい!高柳!」
―――― 信じられない!一つも覚えてない!一つもないんだ!彼女の記憶が。どうして?どうしてなんだよ青木さん……
一条の言葉は由弦には聞こえなかった。



