漢江のほとりで待ってる


家族と顔のはっきりと分からない女性が、自分の誕生日を祝ってくれている場面や、顔の分からない女性を自分の馬、エトワールに乗せて、森を散策したりと、日毎、新しい映像が頭に過った。

唯一分かったのが、いつも出て来る、その顔の分からない女性は、同一人物だってこと。

「エトワール!?そうだ、オレの馬だ!いつかの誕生日に、父さんがプレゼントしてくれたんだ。オレはあの気位の高いエトワールに、誰かを乗せたのか?エトワールが乗せるなんて、よほどだぞ!」

由弦は何か思い出せそうで、思い出せない、もどかしかった。

テレビを点けると、まだ、慶太と珉珠のことが話題になっていて、「困難を乗り越えた二人」「記憶を消失したままの弟を支える兄とその恋人」など、美化して「二人の愛の軌跡」など題をつけて流していた。

二人の婚約の報道を見るたび由弦は辛くなった。

そして思わず、テレビを投げ付け、蹴り付け、壊した。

美桜が駆け付けた時には、気が狂たように、テレビを力の限り踏み付けていた。

美桜は必死で止めた。

美桜に押さえられながら、

「また来るって言ってたけど、そりゃ来るわけないよな?兄貴とこういうことになってたんだから。でさ?来たら来たで、結婚するってさ!笑っちゃうよな?」

涙が溢れた目で、やり切れない笑みを浮かべて由弦は言った。

―――― 何で!?何でオレはこんな苦しい思いをしなきゃいけないの!兄貴の婚約をなんで心から喜べないんだ!何で!

胸の中で張り裂けそうな思いが、涙となって出ていた。

美桜は由弦を必死で抑えた。何も言えない。言えるはずもなかった。

崩れ落ちた由弦は、

「美桜、別れよう」

「えっ!?」

「オレが入院して、初めて美桜が来たあの日から、もうオレの中で美桜とは、終わってたのかもしれない。ベッドから目が覚めた時、会いたい人は美桜じゃなかった。以前の気持ちと変わっていたのに気付いたんだ。きみにときめかなかった」

美桜は由弦の口からはっきりと言われたことに、ショックを受けた。

分かっていたけど、気付かない振りをしていた、気付きたくなかった。

由弦の中に、自分がいないことなんて、そんなこととっくに分かっていたのに。

でも、繋ぎ止める言葉すら、どこにも残っていなかった。