それからの珉珠は、仕事をしながら、時折手が止まると、前にも増して溜息を吐くようになった。
由弦のために、どうすれば最善なのか、二度と会わない方が彼のためなのか、また美桜の気持ちも分からなくはなかった。
それに彼はまだ若い、未来もある。自分が足枷になってはいけない。
分かっていても、答えが出せない自分に苦しんでいた。
―――― 彼のためなら、迷いもなく手放せると思っていたのに。私が執着してる?それなら私、最低だ。
一人休憩している時もそのことばかり考えて、とても辛そうに見える。
他の社員の前では、何もなかったように対応し、時に営業スマイルを浮かべ、秘書である気配り目配りも忘れず、仕事をこなしているように見えた。でも本当の所は胸が苦しくて仕方なかった。
休日には教会へ通い、リフレッシュさせるようにしていた。
主の導いてくださるままに、流れるままに。
由弦が一時の止まり木でしかなかったのなら、それも運命。
でも、彼との出会いは、嘘じゃない。
紛れもなく、確かに彼を愛した自分がいた。
そしてたぶん、充実していた。
だから由弦との出会いも、神の思し召しだと思っていた。
事実、彼に出会ってからは、一人だった時よりも世界観が変わり、彼が自分にとって救いの手のようだったし、さらに牧師の説教もより自分に生かされた。
なのにどうしてか、気持ちがすっきりしない。
これは主がお望みになることなのか、今の珉珠には、ぽっかりと開いた胸を埋める術がなかった。
でも、教会に来て願うのはただ一つ、由弦が一日でも早く、身も心も元気になるように。笑顔を取り戻すように。それだけだった。
日増しに沈んで行くように見える、珉珠の姿を見兼ねた慶太は、
思わず、
「そんなに辛いのなら、今度は本当に私のものになれ!君の辛そうにしている姿を見ている方が辛い!私なら君を悲しませたりはしない!」
素直に珉珠に言った。
「副社長……」
珉珠は、その言葉に寄りかかりそうになった。
「目の前に、差し伸べられた手があるなら、素直にその手を掴むことも、主の思し召しだと私は思う。辛いなら辛いと誰かに頼るのも一つの術だ。間違ってはいない。私の肩に寄り添え。私は君を支え切れないほど、そんなヤワじゃない!」
慶太の言葉は痛いほど珉珠の心に響いた。
珉珠は、苦痛の選択をする。
考え抜いた揚げ句、美桜に由弦を託すことを決意する。
自分のせいで苦しめたくない。彼には幸せになってほしい、いつも笑顔でいてほしいと心から思った。
そして珉珠は、由弦の所には行かなくなった……



