漢江のほとりで待ってる


いつものように珉珠は、由弦が元気なのをそっと確認すると、声を掛けず病院を出た。

そのまま目的もなく、街を歩いていた。

「いつかも、こんな風に街を彷徨ったっけ?由弦を探しながら、どこを探していいか分からず途方に暮れた」一人呟きながら空を見上げた。

—————— 由弦……本当のあなたは今どこにいるの?あなたがいない空はこんなにも虚しいものなの?由弦……

少しずつ珉珠の心に哀しみが込み上げて行った。涙が込み上げて来る。

その姿を、偶然、ちょうど外回りから帰る、信号待ちしていた車の中から、慶太が見つけた。

「青木君?」そう思いながら車を寄せた。

車を停めて降りた慶太は、珉珠の方へ歩いて行った。

「青木君?こんな所で何をしてるんだ?」

「ふ、副社長!」驚く珉珠。

「大丈夫か?青木君」

「はい、ちょっと考え事をしてただけです」

「そうか。それだけならいいけど、送ろうか?病院まで」

「いえ、さっき行ってきましたから。その帰りです」

「そうなのか?う~ん。それに今私は副社長じゃない。高柳の一社員だ」

「失礼致しました。でも私にとっては副社長ですから」

「ふっ。君らしい返事だ」

珉珠は慶太の言葉に少し笑った。

「このあと何も用がないなら、私と一緒に本社へ行かないか?君さえよければ?だが。実を言うと社長も君の復帰を心待ちにしている。由弦の看病まで丸投げにしておいて、こんなことを言うのは何だが、やはり君が必要だ」

少し珉珠は俯いて、返事に迷ったが、気も紛れるだろうと思い、また、きっと病院に行っても彼の姿を確認するだけの毎日になるだけ。
二人の仲の良い姿を見て苦しむくらいなら、仕事に打ち込もうと決心した。

「本社に行きます。働かせてください!」

顔を上げて答えた。

「潔い返事だ。では行こうか」と慶太。

「はい!」

何かを吹っ切ったように、力強く返事をした珉珠。

「あ!副社長、ちょっと寄って頂きたいところがあるんです」

珉珠は慶太にお願いして、その用を済ませてから二人は本社に向かった。