それから一ヶ月が経ち、由弦は車椅子を降り、リハビリを始めた。

これにも珉珠は付き添った。

彼が転べば、肩を貸して立たせてやり、励ました。

リハビリがない日は、廊下の手すりを伝いながら、歩く練習をした。

その時も必ず傍に彼女がいた。

上手く歩けず、落胆する彼の背中をそっと優しく撫で、

「大丈夫!焦らないで。確実に歩けるようになってるんだから」

そっと声を掛けた。

珉珠の励ましは、由弦にとって大きな力となった。

そして朝起きて、彼女の顔が見えたらとても嬉しかった。

「あ!青木さん!おはよう。今日も来てくれた!」

笑う由弦に、思わず、以前していたように、彼の頬に触れて、

「おはよう由弦、待ってた?」

珉珠はそう返した。

「うん!待ってた!来てくれるの毎日楽しみなんだ!」

前の二人に戻ったように思われた。

ただ、毎日会える嬉しさ反面、

―――― 彼女は兄貴のことが好き……

そう考えたら、何だか淋しい思いがした。

兄貴の秘書だから、兄貴に言われて、仕事の一環として来ている。

弟だから、優しくしてくれている。

ただそれだけの関係。

珉珠は珉珠で、本当のことを言えば、楽になれるのにと思いながら、記憶だけ回復しないことが辛かった。

出来ることなら思い出してほしい!

「珉珠!」

そう呼んでほしい!

運命なら必ず自然と結びつくと信じたかった。

そして時折、由弦が哀しそうな顔をすると、自分の淋しさよりそれ以上に、彼のことがとても心配になった。

「あなたの不安も一緒に少しずつ解決していきましょう」

珉珠はそう言って寄り添った。