慶太は、家にいても、仕事をしても、どうにもならない苦しみに押し潰されそうになっていた。
「大丈夫。私が何とかしてあげる!あなたのことはこの母上が守ってあげる!」母、雅羅の言葉が頭に消えたは浮かんで来る。
「違う!」呟く慶太。
そのあとに幼い頃の由弦との思い出が蘇って来る。
「慶太兄ちゃん!慶太兄ちゃん待ってぇ~!」両手広げて追いかけて来る幼い由弦。
沈んでる自分に、お菓子を半分渡し、自分の隣にちょこんと座って慰めてくれる幼い日の由弦。
離れて暮らすことになったあの日、小さな背中を揺らして泣いていた由弦。
成長しても変わらない笑顔で、「兄貴!」と笑い返して来る由弦。
愛人の子だからと色んな所にたらい回しにされても、それでも道に外れることなく育った由弦。
何も声をかけてやれず、背中を向けたまま、二十年も過ごしてしまった。
その弟が自分のせいで生死を彷徨っている!こんなことしている場合じゃない!慶太は何か吹っ切れたように、
―――― 嫌いじゃない!そうじゃない!お前には何の罪もない!ただただ羨ましかっただけなんだ。悪いのはこの私のひねた心のせいなんだ!母上、やはり、間違っているものは間違っています。こんな状況で普通に何もなかったようになんて、私には出来ません!
自我を取り戻した慶太。



