漢江のほとりで待ってる



それから一ヶ月が過ぎた。

その間に高柳グループは、慶太の結婚の件で大忙しだった。

慶太は日々会見に追われていた。

珉珠は珉珠で、雲隠れしていた。自分の口から、結婚の事実を認めるわけには行かず、会見する時は、由弦の信頼回復をする時と決めていたから。

由弦は、都会の砂漠を避けるため、避暑地にある別荘にいた。

もう何も考えたくなかった。

今年は梅雨明けが早かった。けどなぜか不安定な天気。遠くでは雷の音が鳴っていた。

森林から覗かせる陽射しは強く、森を抜け空を見上げたら、目の前に大きな積乱雲が迫って来た。その存在感に圧倒された。

「何かアニメに出て来そうな感じ。あの中にホントに城が隠されてたりして。なんてな!?蝉の声もやっと聞いた気がするし」

由弦は独り言を言いながら散歩に出ていた。

少しでも嫌なことを忘れるため、嫌なことが起こった場所から離れたかった。

自然を感じながら、目的地の当てもなく歩き続けていると、

「おや?由弦じゃないか!こんなところで会うとはな?」

その声に目を向けると、慶太だった。その横には珉珠がいた。

「そんな怖い顔しなくても、全く相変わらずだな?はは。この一ヶ月間大忙しで、青木君とも会う時間が取れなくて、やっと休暇が取れたんだよ。それで私達は式を挙げる教会の下見と、そのあとウェディングドレスを一緒に選びに行こうかという感じだ」

睨みつける由弦に慶太が笑って言った。

珉珠は俯いたまま、何も言わなかった。

慶太が、偶然に避暑地に来たのは、雅羅が部下に居場所を突き止めさせたため。珉珠はあえて、慶太と一緒に向かった。二度と由弦を手放さないため、守るために。

雷の音が近くなる。

ゴロゴロゴロ……

ポツ ポツ 

ぽちょん ぽちょん ポタ ポタ ポタ

ザー ザー 

由弦の頬に雨粒が落ちて来た、瞬く間に一面を濡らす。

自分がみすぼらしく思えた。珉珠と視線を合わすことも出来ない。

これ以上彼女の前で、醜態を晒したくないと思い、全て終わらせるつもりで、

由弦はゆっくり慶太に近付き、

「くれてやるよ!そんな女!」

そう叫んで珉珠を慶太に突き飛ばした。

その反動で、彼女は慶太の腕の中。そうなるようにわざと突き飛ばした。

濡れたTシャツから由弦の肌が透けていた。

珉珠の横を由弦が通り過ぎて行く。

今彼を引き留めないと、後悔するような気がした。

珉珠は、慶太を置いて、由弦を追いかけた。