ダドリー夫妻の朝と夜

 エミリアは、夫に愛されなくても仕方ないと、初めから思っていた。

 しかし、貴族同士の結婚である。離縁など考えられないことであるし、できれば円満な夫婦生活を送りたい。

 そして何より、エミリアはあいも変わらずアーサーに恋している。たとえ愛されなかったとしても、嫌われたくはないのだ。


 エミリアは、もぞりと体をくねらせた。

 アーサーがブランケットを巻き直したのか、両手両足、自由にならない。

 それに気づいたのか、アーサーがエミリアの眼前からブランケットを取り除いた。わずかにアーサーの硬い指先が頬に当たる。

 覚悟を決めたエミリアは、そっと瞼を持ち上げた。

 アーサーは、じっとエミリアを見ていた。今朝の朝食室で見つめられたときと変わらず、顔面の筋肉をピクリとも動かさない彼だったが、エミリアの頬はそれだけで紅潮した。

「おはよう、我が妻よ」

「おはようございます、アーサー様……じゃなくて、あの、おかえりなさいませ」

「ああ、ただいま」

 久しぶりに聞く夫の帰宅の挨拶に、エミリアは蕾が綻ぶように微笑んだ。


 ああ、ずっとこれが聞きたかったの。それにそれに……”我が妻よ”ですって!