ダドリー夫妻の朝と夜

 今日一日アーサーの心は、己の不甲斐なさへの後悔と、待ち受ける愛への期待で忙しなく揺れ動いていた。どれほど政財界が動こうとも微動だにしない己の感情が、キャンドルの炎よりもたやすく揺れることに驚きながらも、それを楽しみさえした。

 自分の心など、エミリアの吐息一つで火種ごと消し飛ぶことも、ビルヂングを燃やし尽くす大火になることも、彼はとうに知っていた。

 老舗の銀行家の元を訪れた際、挨拶に出たエミリアを見た瞬間、彼は彼女を手に入れることを決めており、おそらくは誰にもそれを知られぬうちに己の希望を叶えたのだった。


 一向に目覚める気のないエミリアの体の下に両手を入れる。こうして抱き上げたのは、新居に迎え入れたとき以来だ。

 アーサーの手から逃れるように、エミリアの顔が向こうを向く。

 つまらなく思ったアーサーは、そのままエミリアを抱き上げ、部屋の外へと歩き出した。

 エミリアがギョッとしたことがわかる。おそらく何か叫ぼうとして、必死でそれをこらえた。


 ──ああ、わたしの妻はなんて愛らしいのか。


「こんなところで妻を寝かせてしまっては、夫失格だと君に叱られるのも道理だ。寝室まで連れて行こう」
行き先がわかってホッとしたのか、エミリアが力を抜き、アーサーに身を預ける。

 それに満足しながら、アーサーはより一層エミリアを抱き寄せた。

「もちろん、夫婦の寝室へとね」

 アーサーは、ストロベリー・ブロンドからわずかにのぞく苺色の染まる肌に口づけた。



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