「じゃあな、







・・・・・・・・こはる。」




今井さんの聞こえるか聞こえないかの小さい声が
あたしの耳に入ったのは
ドアが閉まるのとほぼ同時だった。




体が一気に硬直して動かなくなった。


そら、みみ?

いや違う。



今井さん、いま、たしかに、
あたしの名前、呼んだ。


どうして?
どうしてですか?


あたしの気持ちに気付いてて、
それで、
あたしのこと、もてあそんでるんですか?


でも、あたしの気持ちは気付かれてない、はず。

そういう素振りを見せたことは全くないから。




・・・と、とにかくここから離れなきゃ。



歩きながらぐるぐるぐるぐる考える。


こはる。

こはる。


こはる。


あたしの、名前。

たしか、入ってきたときに自己紹介したとき以外
あたしの名前を知るときはなかったはず。


覚えてて、くれたんだ。


でも、本当に本当にどうして?


なんでなんでなんでなんで?


なんでそんなこと、するんですか?


おもわせぶり、みたいな。


もう、こんなことされたら、
忘れられないじゃん。