突然、掴まれてない方の腕をぐいっと後ろから引っ張られて
体がぐらっと揺れたかと思うと
父親の腕が離れた瞬間、だれかに支えられて、
それからすぐに、
あたしの視界がだれかの背中に遮られた。




「お客様、
大声を出されたり、
うちの店員への暴力などは
ほかのお客様にご迷惑になりますので、

お代はいただきませんから、今すぐお引き取りください。」




涙がこぼれそうになった。


今井さんが、助けてくれた。


あたしのことを父親から引き離して、
すぐ、あたしたちの間に入ってくれて、
助けてくれた。



今井さんの大きい背中を見ながら、

安心と感謝で鼻がツンとして
今にもでてきそうな涙を、必死にこらえた。



いつからいたのか、そっと店長に腕を引かれて、
休憩室までつれていかれた。


父親は、まだなにか騒いでたけど、
少しずつ静かになっていった。



「佐藤さん、

嫌な思いしたね。

今日は帰って、休んだ方がいい。


最後の日がこんな形で終わって、嫌だよね。



今までお疲れ様。

佐藤さんはよく働いてくれて、本当に助かってた。


これからも、頑張ってね。」


唯一、あたしの家庭事情を知ってる店長は
そう言ってくれた。


あたしは素直に店長の言葉に甘えた。
もう今日は、無理だと自分でも思ったから。


「ありがとう、ございます。

すみません、私のせいでこんなことに巻き込んでしまって。」


店長はゆっくり首をふった。


「佐藤さんは、悪くないでしょ?


今井くんがさっと行ってくれたからそこまで大きなことにならなかったし、良かったよ。」


「ありがとうございます。



今まで店長には本当にお世話になりました。

ありがとうございました。」

店長はにっこり笑ってくれた。


「うん。じゃあ、本当に、お疲れ様。」

「はい。


ありがとうございました。」


「じゃあ、僕は戻るね。」


店長はそう言って、仕事に戻っていった。


今井さんには、いつお礼しよう?


今日、シフト何時までなんだろう?

運が良ければ、
そろそろ今井さん今日は終わりだと思うんだけど。


店の外で、待ってればいいか。