耳を疑った。
でも聞き間違えるはずのない声だった。
何回も、聞いた声。
次に来る言葉は、だいたい、
『遅い。』
だけど今は、違った。
「ここ座っていい?」
なんで?なんで?
やっぱりそこにいたのは、あたしの片想いの相手で。
「どう、ぞ。」
逆にここで、
ダメです、なんて言える人いるのかなあ、
なんて思いながら返事をした。
「どうも。」
ガタガタと椅子をひいて、あたしの向かい側に腰かけた。
周りを少し見ると、アシダさんの姿はなかった。
、、、嬉しい。
今はあたしだけと、話せるんだ。
あたしの目の前に座る今井さんの顔を見れない。
意識、しちゃうせいで。
叶わない恋なのにね。
「暇なの?」
「はい。」
友達が体調崩しちゃって、って補足説明できるほどの余裕はあたしにはなかった。
どきどきして、
胸が苦しくて、
息が思うように吸えなくて、
はい、の2文字で精一杯。
「そうか。」
なんでここにいるんだろう、とか、
そういう疑問の前に嬉しさと興奮で頭がどうにかなりそうだった。
今井さん。
もう、まともに話すことはないと思ってた。
でも、
次の言葉を待っていたけど、
今井さんは少し考えたような顔をしてから、
しばらくして、
「じゃあ行くわ。ごめんな、邪魔して。」
立ち上がった。
なんだ。
ただ単にバイト仲間を見つけて暇そうだったから来ただけか。
舞い上がってたあたし、バカみたい。
あたしがアシダさんみたいな人だったら、もっと会話を続けてくれたのかな?
いや、
でも、
アシダさんと仕事以外の話してるとこ、見たことない。
アシダさんが一方的に話してるだけだった。
でも婚約してるんだもんね。
好きなんだよね。



