「橙輝くん、梓!
ちょっと降りてらっしゃい」
お母さんの声がして、
あたしと橙輝は顔を見合わせた。
お母さんが呼ぶなんて、めずらしい。
二人で部屋を出てリビングに行くと、
お母さんがニコニコして
あたし達を待っていた。
その隣にはパパもいて、
パパもどこか嬉しそうに見えた。
「ママたちね、旅行に行くから」
「旅行?どこに?」
「ハワイよ」
「えー。楽しみ!ハワイかぁ」
「何言ってんの?行くのはママたちだけよ」
「は、はぁ?」
お母さんはハワイ旅行の特集が
取り上げられている雑誌を広げて、
嬉しそうに眺めた。
ハワイに旅行?
あたしたちを置いて?
「いいなあ、ハワイ。
なんであたしらはダメなの?」
「ちょっと早い新婚旅行なものだもん。
当たり前でしょ」
「だからって、一週間も家を空けるの?」
「そうよ。あんたは橙輝くんと
仲良くお留守番しててね」
お留守番ねぇ……。
少しの間ぼうっとして、それから
あたしはあることに気が付いた。
お母さんたちが旅行ってことはあたしは……。
「橙輝と、二人?」