「違います……」
あの現場を見られていたんだ……。
そう思ったら恥ずかしなる。
するとお坊さんは、ハンカチを取り出して
「深い事情は、分かりませんが
朔夜君は、母親思いの優しい子ですよ」
そう言って差し出してきた。
「あの人がですか……?」
信じられない。
「えぇ、お母様を大切にしていたのは、事実です。
それに人には、誰しも善と悪があります。
違うのは、その人の価値観。
いくら自分が善を尽くしても相手が拒めば
悪になり下がります」
「人の気持ちは、見えるようで見えないもの。
朔夜君も何か理由があって、あえてあのような
態度をとっているのかも知れませんね?」
お坊さんは、そう言うとクスッと微笑んだ。
何か理由があって……?
そう思ったとき
お母さんの言葉が頭の中で浮かんだ。
似たようなことをお母さんも言っていたわ。