一瞬の間。



「いや、あいつは死んだ」

「ほら、ちょっと透けてる。幽霊だよ」

「幽霊と話が出来るなんて聞いたことねえよ!」

「とにかく椅子から降りてくれる?」



 そう言うとお兄ちゃんは素直に椅子からおりて、わたしの前に正座する。



「詩月」

「お兄ちゃん!」



 そう呼んだら、お兄ちゃんは俯いたまま動かない。
 どうしたんだろうって思っていたら、急に泣き出した。



「会いたかった」

「お兄ちゃん……」

「別れたく、なかった……」

「うん」



 ごめん。
 謝ろうとしたけれど、その言葉が余計にお兄ちゃんを傷つける気がした。


 自殺、しようとしてたんだもん。そのくらい今、お兄ちゃんは追い詰められていたんだ。


 もう、傷つけたくない。