「わたしのために、死なないで」

「……わかってる」

「わたしがこんなこと言うのは間違ってるかもしれないけど、わたしのために生きて欲しい。わたしの見れなかったもの、全部見て経験して欲しい」

「……ごめん」



 本当はお兄ちゃんだってわかってる。本当は命を大事にしなきゃならないこと、わかってる。


 だから、あまり強くは言えない。



「今だけ、今だけはわたしがいるから」



 すぐにいなくなってしまう。そんなことはお互いにわかっている。


 わたしが会いに来たから、お兄ちゃんの命は一度助かった。でも、これからはどうなんだろう。


 わたしという存在が本当になくなったら、お兄ちゃんの悲しみは増す。
 わたしの未練が、わがままが、お兄ちゃんを殺そうとしているのかもしれない。


 だから、お兄ちゃんからこの一週間の記憶が消えることをあえて言わなかったのは正解かもしれない。


 ごめんね、お兄ちゃん。
 わたし、お兄ちゃんを守りたくて嘘をついた。