振り返って、課長と向かい合う。

ほら、勘違いしちゃダメなのよ。

課長はなにか仕事の頼みがあっただけ。

ただそれだけのこと。

「なんでしょうか?」

急ぎの仕事だろうか。

内容によっては残業ということになる。

特に用事のない私にとっては、残業は苦でもなんでもないけれど。

そんなことを考えていた私は、とんでもない頼みに、自分の耳を疑った。

「課長、すみませんが、もう一度おっしゃってください」

きっと聞き間違いだ。

幻聴が聞こえるなんて、体調戻ってなかったのかな。

課長は真剣な表情で熱い視線のまま、先ほどと同じことを告げてきた。

「俺の婚約者になってほしい」

幻聴ではなかった。

婚約者って、つまり、婚約者…。