「ありがとう」

課長は私からコップを受け取り、一口飲んだ後、その場から離れることなく、私を見ている。

なんだか視線が熱い。

課長に見つめられると、居たたまれなくなる。

どこを見ていいのかわからず、私はシンクに向き直り、洗い物をすることにした。

「緒川」

いつものように名前を呼ばれただけなのに、なぜかドキッとして声が震える。

「なんでしょうか?」

私は課長に背を向けたまま、洗い物に集中する。

正確に言えば、集中しているフリをしていた。

そうでもしないと、勘違いしてしまいそうになる。

課長には結婚を考えている人がいるのだから…。

またしても頭の中で念仏を唱える。

「頼みがあるんだが」

その言葉に洗い物をしていた手が止まる。

「頼み、ですか?」