御守りを買えと言われて戸惑いを隠せない二人。




とりあえず授与所の御守りを見てみると、いくつかの御利益に分けられた御守りが売られていた。




可愛い御守りを見て、奈麗は普通に可愛いと感じた。



しかし、和装の青年の言う事は怪しい。




買うか買わないか悩んでる奈麗をよそに、弓愛は手にした御守りを神主に渡した。



「私はこれを買うわ。」



紺色の御守りを取り、神主へとわたす。



「え、本当に買うんですか?」




奈麗は少女の素直さに驚きを隠せない。




「御守り、普通に可愛いし。」



にっこりと微笑む笑顔は純粋無垢の表現が良く似合う。



神主さんは二人の会話に無関心な表情だ。



そして慣れた手つきで授与袋に御守りを納め、弓愛に渡した。



弓愛は両手で丁寧に千円札を神主へと差し出した。




奈麗はその所作を見つめる。




(両手でちゃんと渡すんだ…。礼儀正しいんだな。)






そういえば青年はどうしているのだろうと青年のほうを見やる。





青年はいつのまにかいなくなっていた。





以前の廃神社でも突然現れて突然いなくなった。




すごく…謎な存在だ。




今まで見てきた霊の中でもその存在感は一番異質で謎に包まれている。




「奈麗ちゃん。」




呆然としてるところを弓愛に呼ばれて振り返る。




「買おう。奈麗ちゃんにはこれが良いよ」





そう言って指さされたのは真っ白な御守りだった。




(あれ…私…名前言ったっけ…)




「奈麗ちゃんはまだ何にも染まってない真っ白な色なの。



でも白いから、どんな色にも染まりやすい。



綺麗な色に染まるなら良いけれど、悪い色に染まってしまったら、最後。



中々、白に戻すのは難しい。



特に黒やグレーの色にはね、注意して。」




彼女の言う意味を理解しかねる奈麗。




けれど、色が自分の心の中を表現しているのであれば、自分は白なんかじゃない。




真っ黒に染まっているとさえ思えてくる。



思い出される映像。



幼い少女が真っ暗闇の中で泣き噦る。



振り上がる大人の大きな腕。足。



罵声。




小さな肉体に走る痛み。




流れる血。




消えないアザ。






鬼の様な形相の顔が脳裏に浮かび、沈んだ気持ちを振り払うように頭をふった。。





奈麗は白の御守りをしばらく見つめ、恐る恐る手に取ると神主へ手渡した。




過去を振り切る様に買うことに決めたのだ。




神主は弓愛の時と同じく授与袋へと御守りを納めて奈麗に手渡した。




奈麗もまた弓愛に習って両手で千円札を差し出した。





「ようお参りでした。」




神主は終始無表情だが、優しい言葉で一言ささやいた。