奈麗(なうら)が目を覚ましたのは朝7時だった。


弓愛(ゆあ)はまだ寝ている。


奈麗は弓愛を起こさないように、静かに大浴場へと向かった。


湯船に浸かり、シャワーを浴びた後、私服に着替えて自室に戻った時には弓愛は起きて着替えを済ませていた。


「おはよう、奈麗ちゃん。昨日の夢は覚えている?」


「覚えています。」



ユウに抱きつかれた時を思い出し、胸がギュッと痛んだ。


「奈麗ちゃん大浴場行ってきたのね。私もナビゲーター候補の話をされてから、あの後ちょっと【発散】したの。そしたら浴衣がはだけちゃってた。」


にっこり弓愛は微笑む。


「発散…?」


奈麗は首を傾げた。


「うん。奈麗ちゃんはピュアだから。何も知らなくて良いの。」


奈麗の頭を撫でる弓愛。奈麗はますます気になった。


弓愛は話を切り替えた。


「とりあえず朝食にしましょ!」


2人は朝食をとるべく、ホテルの中のラウンジへと向かった。


朝食はバイキング形式となっており、飲み物も自分で取りに行く必要があった。


弓愛は自身で入れたコーヒーを飲む。
奈麗はオレンジジュースを自身のコップに注いだ。


「昨日の夢の中の話をまとめましょう。

霊界から課せられた試練を乗り越えた後、私たちのどちらかが霊界ナビゲーターに選ばれる。

それまではお互いライバルで、切磋琢磨し合うわけね。

正々堂々と頑張りましょう。」


奈麗は肯定も否定もせず、単純に疑問をぶつけた。
オレンジジュースを吸い込む。


「弓愛さん…霊界ナビゲーターに選ばれると…どうなるの?」



「私にも分からない。でもね…。



あの彼がとてもカッコよくて素敵ってことね。」



「…。…ユウさんのこと?」


「そう。私は異性として彼に興味がある。だから選ばれたい。」


弓愛は予想もしない回答を繰り出した。


ただ黙る奈麗(なうら)。

それを面白がるように弓愛(ゆあ)は見つめた。


「ねえ、奈麗ちゃん。人柱って知ってる?」


「ひとばしら…?生贄のこと?」


「むかしね、とある村で巫女に選ばれた子は龍神の生贄として様々な方法で殺されてきたの。


でもその村だけじゃないわ。

そんなのはね、どこでもよくある話で、本当は口減らしを口実にした人間の勝手な都合がほとんどだったのよ。


でもね、中には本物もいるの。


生きたまま贄となった子もいるのよ。


それが本当の生贄。人柱。


龍神の荒ぶるエネルギー(御魂)を受けるための器。


生涯死ぬ迄、龍神の力の抑止力として生きていく。


龍神はね、言葉ではそうなのだけど、本当は自然界の一部なの。

自然はね、時に災害を起こして人々に厄災を振りまく。

地震、津波、雷、火事とかね。


それはエネルギーが不安定に暴走したから。


それを抑える役目は、ただその不安定なエネルギーを自身が受け皿とするだけ。



人柱は生きていたっていい。


本当は死ぬ必要なんてないの。



むしろ、それが本当の生贄。