ナビゲーター候補者に選ばれて、奈麗は気が遠くなるのを感じた。

しまいには、弓愛に顔色が悪いと心配された。

少し考えさせてあげてほしいと弓愛は青年に告げ、青年は屋敷の離れを案内した。


「そこの廊下を真っ直ぐに進んで突き当たりを左に行くと海の見える部屋がある。そこで休むといい。」

離れを案内された後、青年を通り越して廊下を歩いている途中のことだった。

青年に後ろから腕をつかまれた。

「後で私も行く。部屋で待っていなさい。」

頭をポンポンとされた。



案内された後、屋敷から見える海を眺めながら静かにため息をついた。



屋敷の中に人は不思議なほど誰もいなかった。



先程の青年とのやりとりを思い出して、奈麗は顔が赤くなるのを感じた。


何故だろう。あの青年を見てると無性に胸が締め付けられる。切なくなる。


懐かしくて、どこか悲しくなるのだ。


懐かしい。


悲しい。


けれど思い出せない。


そのかき乱される感情も、かき消そうとした時だった。


「奈麗。」


せっかくかき消した思いも、その声を聴いて振出しに戻った。


青年は奈麗の隣に腰かけた。


奈麗は青年の顔をちらりと見る。


愛しさの含まれた悲しげな眼差しで見つめられていた。


奈麗は思わず顔が赤くなるのを感じて、眼をそらした。


そんな眼差しで見つめられたことなどなかった。


「私はあなたのことをなんと呼べばいいの?」


「ユウと・・・呼んで」


突然、背後から腕が伸びてぎゅっと抱きしめられた。


奈麗の頭は混乱した。


でも何故だろう。この者のぬくもりを懐かしく感じる。


「いきなりすまない。君が困ってるのもわかってる。でも、少しだけこうさせてほしい。」


奈麗は心をお落ち着けようとそっと目を閉じた。