明るい陽射しのかかる花畑が一面と広がっており、その先には青々と広がる綺麗な海が見える。


水は綺麗で海面が透けて見えるほどだ。



ここは夢の中なのだろうか、と奈麗は思った。



こんな綺麗な光に包まれた景色は知らなかった。



奈麗の中でこれは夢だと思った。意識が妙にはっきりしているのだ。


気づいたらこの場所にいて、隣には弓愛がいた。



弓愛もホテルぶりだねと奈麗に微笑む。



二人は海を背に歩き、花畑を抜けるとしばらくして大きな社殿が見えてきた。



石造の鳥居の下から月夜見神社の社殿と似た造りの建物を眺める。



同じ萱葺の神明造だが、現界の社殿とは異なり建物は横に長く伸びている。



とても大きな社殿だ。



ふと背後から2人の肩が同時に叩かれ、奈麗と弓愛はほぼ同じタイミングで身を引いて振り返った。




すると、あの青年が立っていた。驚く二人を面白がっている様にも見える。



紫の狩衣姿が良く似合っていた。




「よく来たね。中を案内するよ。」





突如現れた青年は二人を社殿の中へと促した。




中は案外簡素な作りだった。




正面に聳える祭壇は茣蓙で隠されており、様々な書簡が傍に並んで置かれている。




青年は茣蓙に座り、上膝に肘をついて2人を眺めた。



「君たちを呼んだのはただ一つ、言うことを聞いてもらうためだ。


僕の道具となれ。」



弓愛はすかさず返す。



「あなたの道具ってどういう意味?」





「僕は霊界からの使者だ。幽体を借りてここに住んでる。



君たちがいる、この世界は幽界と呼ばれている。そして君たちが生きてる世界は肉体を纏う現界。



僕は幽界よりも更に異なる次元の世界、霊界からやって来た。




簡単に言うなら、僕の社長は月読命で、僕の上司はシリウス神。


この祭壇で祀られているのは月読命。」




「シリウス?あの光の強い星のこと?」



青年はただ頷く。



「日本で星の神の信仰なんて聞いたことがない。」




「僕は今、シリウス神からの指示でここにいる。


もともとはシリウスの星にいた者だ。


シリウス神という星神の信仰は、本当は日本にも昔にあったんだ。今では面影もなく人々から忘却されてしまったけれど。



あらゆる万物には神が宿るとされた日本人の思想と同じくして、数多の星々にも神が存在する。


僕の上司はその内の一柱。


月読命はそんな星々の神々を統括している。


僕はそのシリウス神の命により働く部下だと思えばいい。




そんな僕の役目は霊界ナビゲーターをサポートし、立派に育て上げること。



霊界ナビゲーターが働くのはこの幽界と現界になる。



今や幽界は現界と等しくあらゆる面において整備化されている。



術師や術者を徐々に廃止。



現存する術師には邪な道にいかないか見張るための監視をつけたり。



幽界では今、霊と人間との使役契約の禁止化を図り、様々な危険な霊的存在を監視し、時には冥府の門番によって裁く。




君たちにしてもらうことはまず、術師の制限と、霊的存在を導く役目を担ってほしい。」




「霊的存在ってどんな霊なんですか?」



質問を繰り出す弓愛をよそに奈麗は少しだけ後ずさりした。




青年の話の内容について行けなさ過ぎて眩暈がする。



「もちろん、人間だけではない。


霊的存在とは動物霊や自然霊、妖怪、悪魔や魔物、神々全てのことを示す。」