鍵………。

「鍵!」

「そうだよ。鍵だよ。」

 思わず出た大きな声に宗一郎は目を丸くした。
 気持ちが急いて言葉が上手く口から出ていってくれない。

「鍵……鍵、は……あの。鍵です。」

「だから鍵がどうしたの?落ち着いて。」

 少し呆れたみたいに笑う宗一郎がなだめてくれる。
 深呼吸して落ち着かせてから、もう一度、口を開いた。

「ここに。」

 胸元から鍵を出してみせた。
 ずっと首から提げていたもの。

「儀式と共に受け継がれていた鍵です。
 肌身離さず身につけることと。」

 目を見開いた宗一郎が軽い笑い声を上げて「灯台下暗しとはこのことだね」と笑い声の隙間から漏らした。

 ひとしきり笑った後に普通のことを話す口調で宗一郎から言われたことは思いもよらないことだった。

「もしも……。
 この中に、そうだな。
 何も無かったとしたら。
 どうか君の手で僕を処刑して欲しい。」

「え……。」

 手渡されたのは小さなナイフ。
 小さくても冷たく光る刃先は鋭く簡単に人を殺められそうな……。

「そんな。どうして。」

 二人で生きて行こうって。
 その為の……そう思っていたのに。
 思っていたのは私だけ?

 動揺を隠せない桃香とは対照的に宗一郎は冷静だった。
 決めてきた台詞をただ話すように続けた。

「僕が生きていては僕と同じような不幸な歴史が繰り返されるだけだ。
 桃ちゃんにここで……。
 桃ちゃんの手で儀式の場で悪魔を葬り去って欲しいんだ。」

「そんな……。」

 到底受け入れられない提案に首を縦に振るわけがなかった。

 了承しないせいなのか、宗一郎はため息を吐くように打ち明けた。

「辻本家で密やかに言われているもう1つの言い伝えがあるんだ。」

「え………。」

 今、こんな話をしている時に言わなければいけないようなことが……。

 俯いてしまった宗一郎が何を思っているのかは伺えなかった。
 けれどその声はハッキリと聞こえた。