インターフォンが鳴り来客を告げた。
 ここに来るのは塚田くらいだ。
 しかし宗一郎は体調が悪いようには見えない。

 不思議に思っていると宗一郎が玄関まで出迎えに行った。

「ったく。こんなこと俺に頼むな。」

 やはり声は塚田だった。

「いいじゃないか。涼司も食べていけよ。」

 楽し気な声は宗一郎だけで、塚田は面倒くさそうに返答をする。

「俺は今から病院だ。」

 リビングまで来た2人。
 塚田はすぐに出て行くつもりなのか薄手のコートは羽織ったままだ。
 手には箱。

 塚田は桃香を見て安心したように言った。

「大丈夫な面してるな。
 また何かあればいつでも診察してやるぞ。
 宗一郎の婚約者様だからな。」

「婚約……?」

 含みを持たせたような笑みを浮かべている塚田と、その隣で微笑んでいる宗一郎に同意を求められて戸惑った。

 表向きに、ではなく婚約者なのか。
 生け贄ではなくなった…のだから。


 本当に帰って行く塚田を見送って、それから箱を開けて中身を確認する。

 小さめな丸い形に、可愛いデコレーションが周りを縁取る。
 真ん中のチョコレートには『Happy バースデーももちゃん』とポップな文字が踊っていた。

「チョコレートのプレートにまで『ももちゃん』って………。
 そんな歳じゃ……。」

 憎まれ口はうまく言葉にならなかった。

 涙で濡れる頬を見せないように顔を背けても宗一郎は微笑んでいる。
 温かい眼差しを感じて涙が余計にあふれた。

 初めてだった。

 バースデーケーキも祝ってもらえる誕生日も。
 何日も遅れた誕生日でも、心から喜んでいい誕生日。

「おめでとう。桃ちゃん。
 やっと桃ちゃんの誕生日を心から祝えるよ。」

 そうだ。自分と宗一郎さんは裏と表。
 私の誕生日が来るたびに憂鬱な気持ちになっていたのだ。

「ずっと気になっていたんです。
 本儀式を20歳に延ばしたのは……。」

 慈悲深い人だと言って絢美に笑われたことが遠い昔に思えた。

「16歳から20歳にしたのは少しでも自分の宿命を先延ばしにしたかった。
 独りよがりな考えだよね。
 長い方が辛いよね。」

 声は悲しみを含んで重く沈む。

 それをすくいあげて抱きしめたくて、それなのに上手く言葉に出来なくて、とにかく急いで否定した。

「そんなことないです。
 社会人になれてたくさんの経験ができて。
 あ、それに蒼様はどうしてあの会社で、えっと、会社は休んでて大丈夫なんですか?」

 聞きたいことは山積みだった。

 塚田に腹を割って話せと言われたせいだけじゃない。
 聞きたくても聞いてはいけないと思っていた色々は聞いて良かったんだと今は分かった気がするから。