つかず離れずの生活が何日か続いた。
 宗一郎的に言えば太らせて食べるまでの時間。

 儀式を逃げた身の自分は仕事に行くわけにもいかず、宗一郎は何をしていた人なのか分からない。
 本当に蒼様だとしたら桃香と同じ会社に出社しなくていいのか。
 けれど桃香と同じく家から出ない生活をしていた。

 こんな生活を続けられるわけがない。
 桃香は本儀式が成功したと思われているのなら帰らないことは当たり前で、けれど宗一郎はそうもいかないだろう。

「宗一郎さんは……仕事に行かなくて平気ですか?」

「さぁ。どうかな。
 でも、買い物には行かないとね。
 腹ペコ姫がいるからね。」

 いたずらっぽくウィンクした宗一郎に微笑んだ。

 たいていはリビングで過ごす桃香。
 かたや宗一郎は部屋に籠ることもあるものの、たいていはリビングにいた。
 お互いに程よい距離で生活をしていた。
 
 リビングの死角になる部分の壁全面は本棚だった。
 絵本から様々なジャンルの本が並べられている。

 それを端から順に読んでいくのが楽しかった。

 本の世界に没頭できて、何もかもを忘れられた。
 自分の宿命も今の立場も2人の説明できない間柄も何もかも。

 そんな風に過ごすうちに宗一郎にたまに感じていた禍々しさは日を追うごとに感じなくなっていた。
 ただ未だに時折悲しそうな顔をして大きな陰を背負っているように感じた。

 悲しそうな表情をする時は突然やって来て、この世の終わりみたいな顔をする。
 ちょうど今みたいに。

 だから宗一郎に悲しそうな顔をさせないように自ら食べられないぞジョークを始める。

「太らせて食べようなんて、そうはいきませんよ?」

 ずっと………ジョークで終わればいいのに。

「そっか。残念だなぁ。
 ぷくぷくしてた方が抱き心地もいいんだけどなぁ。」

 穏やかに微笑んだ宗一郎の続けた言葉が現実へと引き戻した。

「あー。
 本当に食べたくなってきちゃうな。」

 呟きに肩を揺らして、穏やかな時間だったはずなのに、じっとりと恐怖が体を這っていく。

 乾いた笑いを吐いた宗一郎が「冗談」と、何が冗談なのか分からないトーンで言った。

 だからだと思う。
 つい口を出た言葉はひどく宗一郎を驚かせる言葉だった。