リビングだろうと思われる方へ行くとやはりそうだった。
 宗一郎はソファに座って、ぼんやりしていた。

「あの………。」

 振り向いた宗一郎の様子がおかしい。
 ぼんやりというよりもどこか辛そうだ。

「ご飯は…食べるのかな?」

 そう言って立ち上がった宗一郎は揺らめいてソファにつかまった。

「大丈夫ですか?」

 支えようとする桃香に手を出して拒否する姿勢を示した。

「あぁ。……かっこつかないな。
 君の方が熱を出してもおかしくない状況だっていうのに。」

 再び歩き出そうとする宗一郎はふらついて足取りがおぼつかない。
 それなのにキッチンに向かおうとしている。

「お休みになられた方がいいんじゃないですか?」

 ふらつく宗一郎はよろめいて、倒れてしまいそうな彼に支えるなと言われても黙っていられるわけがない。

「馬鹿だなぁ。
 放っておけばいいのに。
 僕が倒れて、どうにかなってしまった方が君は助かるんだよ?」

 弱々しい声。
 どこに神の子の神々しい力があるのか、どこが禍々しい雰囲気を纏っているのか。
 今のこの人は、ただの病人だ。

「目の前で人が辛そうな顔をしてるのに放っておけません。」

「フッ。
 そのせいで食べられるかもしれないのに?」

 嘲笑うかのように口の端を上げた宗一郎に肩を貸して、たぶん彼の部屋であろう奥の部屋へと連れて行く。
 減らず口をたたいた宗一郎も大人しく桃香につかまりながら歩いた。

 宗一郎の部屋だろうと思っていた部屋まで行くとその扉の前で彼は体を離した。

「君は部屋に入らない方がいい。」

 それだけ言うと1人、部屋に入っていった。
 目の前の扉が冷たく閉まり、桃香はその場で立ち尽くした。

 その扉は儀式の扉のように固く閉ざされて、相容れない関係を物語っているようだった。